くちばしで木を突く鳥、キツツキ。
あの木を突く行為は”ドラミング”と言われていますが、僕はいまだに生のドラミングの音はおろか、実際のキツツキも見たことはありません。
というのも、キツツキがいる動物園は僕の住んでいる近郊の動物園には存在しないため、容易に見ることができないことが理由です。。。
いつかは見に行きたいなぁと思ってはいるのですが、なかなか簡単ではなくて(苦笑)
ちなみに「キツツキ」というのは
そうなんです。
木を突く鳥の総称のことをいうので、キツツキという鳥はいないんです。
日本で見れるキツツキ科の鳥は以下の4種類です。
キツツキ自体の生態も結構面白いので紹介したいところなのですが、今回は
「キツツキは脳震盪を起こさないのか。」
という部分にクローズアップしてみたいと思います。
面白いキツツキの生態はまた後日ということで。
キツツキの連射は高橋名人を超える
これがキツツキ科の中で一番大きなアオゲラ。
キツツキのドラミングは1秒間に20回という高速に木を突きます。
あの超有名な高橋名人でも1秒間に16連射でしたから、それよりも遥かに速く木を連打しているという事になります。
それだけのスピードで木を突くとなると脳にかなりの衝撃を受けると思われます。
ですが、そんな素振りは一切ありません。
なぜ脳を痛めないのかという事は研究者の間でもずっと謎でした。
考えられる可能性としては以下のような説がありました。
複数説がある中でも
「くちばしと頭蓋骨の間に”衝撃吸収材”があり、それが脳を守っている」
というという説が一番有力だったそうです。
この衝撃吸収システムはアメフトやアイスホッケーなどのコンタクトスポーツのケガ防止ヘルメットの開発に応用できると考えられていたほどだそうです。
しかし、ベルギーのアントウェルペン大学での研究で”キツツキは衝撃から脳を保護する吸収材が全く存在しない”という事が明らかになりました。
むしろ、衝撃を和らげるどころか真正面から衝撃をモロに受けていたようです。
ではなぜ、頭痛や脳震盪を起こさないのでしょう。
キツツキに衝撃吸収能力は一切なかった
研究では「キツツキが脳を保護するために衝撃を吸収している」という説を検証するために、光速度カメラを使って3種類のキツツキの行動を撮影しました。
今回の研究に選ばれたキツツキは、クマゲラ・エボシクマゲラ・アカゲラの3種類です。
木を突く様子を1秒間に最大4000フレームで記録し、衝撃を受けた時のくちばしや頭の微妙な動きを細かく分析しました。
その結果、木を突く時に起こる衝撃は全く吸収されておらず、むしろ衝撃をまともに受けていたことがわかりました。
動画上で、キツツキのくちばしとその付け根、脳や目などの部分に色違いのマーカーを付けてみると、全ての箇所が木を突いた瞬間に全く同じスピードで停止していました。
つまり、くちばしから頭蓋骨まで衝撃を一切吸収していないという事になります。
また、「衝撃を吸収する場合」と「衝撃を吸収しない場合*1」の2パターンをコンピュータモデルで作成し比較。
その結果、衝撃を吸収するモデルの場合、木を突く力が極端に弱くなるという事がわかりました。
研究主任であるサム・ヴァン・ワッセンベルクさんはこう説明しています。
「もしキツツキが衝撃を吸収しながら木を突くとしたら、余計なエネルギーが必要になります。脳への衝撃を軽減するクッションを内蔵していると考えた場合、木に穴をあけるためには、今よりももっと強い力が必要となるでしょう。」
と、話しています。
では、なぜ脳へのダメージがないのか
キツツキの一撃と同じ衝撃をヒトが受けた場合、脳震盪を起こすことになります。
では、なぜキツツキは脳震盪が起きないのでしょう。
それは、キツツキ程度の小さな脳であれば、脳にダメージは出ない。
と言えるようです。
つまり、衝撃の大きさと脳の大きさが比例していないともいえると思います。
ワッセンベルクさんは「キツツキの脳サイズの場合、木を突いたときの衝撃は脳震盪を起こす”しきい値*2”をはるかに下回っていた。」と話しています。
また、キツツキが突く木は比較的柔らかな木であり、すぐに変形し穴が開きやすいため、脳への衝撃も軽減されていたそうです。
キツツキの脳の大きさで脳震盪といったダメージを受けるためには、今の2倍のスピードで木を突く必要があるそうです。
それはさすがに生物的に不可能なのではと思います(笑)。
1秒間に40連射ですよね。これはもう止まっているのに、音だけが聞こえるみたいな感じになるんじゃないかなと(笑)。
キツツキは言うなればロッキー・バルボア
今回発表された研究結果は、長年専門家の間にあった「衝撃吸収説」に対してのアンチテーゼとも言えます。
もっと言えば、世界最大のキツツキである「ボウシゲラ」。
体長は約50センチ。
このボウシゲラよりも、大きなキツツキが存在しない理由も、これで説明がつくかもしれません。
大きな頭や筋肉を持ったキツツキは、より強力な突きができることになりますが、その分キツツキサイドの脳震盪リスクも上がるという事になります。
現存するぐらいのサイズのキツツキまでが、衝撃吸収材がなくても脳震盪なく安全に木を突くことができるようです。
ただ、キツツキの脳は脳震盪ほどではないにしても、一部ダメージを受けているという研究もあります。
これは「タウタンパク質」と呼ばれるもので、アルツハイマー型認知症の主要原因物質ではないかと言われる物質がほかの鳥に比べて多く蓄積されているということです。
この研究が脳震盪へのダメージとの関係があるのかわかりませんが、キツツキ科の鳥たちは自分でダメージを負いながらも木を打ち続ける”あしたのジョー”や”ロッキー・バルボア”のような真のファイターであると言えそうです。
今後の研究により、この脳震盪へのダメージとタウタンパク質との関係性も明らかになるかもしれません。
他にもいろんな研究が進んで今までわからなかったことが解明されていくとどんどん面白くなっていきますよね。
特に動物はヒトと会話ができませんから、不明な部分も多いでしょうから。それが一つ一つ紐解かれていくと思うと研究者の方々もとても面白いと思います。
僕個人的な感想としては、キツツキの木を突く行動を初めて見た時は衝撃的でしたが、キツツキ自身に衝撃はないという可笑しな結果が出てそれはそれで改めて衝撃を受けました。
詳しい研究結果をご覧になりたい方は、2022年7月14日付けで科学雑誌の『Current Biology』に掲載されていますので、ぜひご覧になってみてください。